ライターのナナシロです。
今ではすっかり定着した『女子力』という言葉。
「女子力を磨きたい!」「女子力を上げたい!」
と、一度は思ったことがある方も多いことでしょう。
そもそも女子力って何?
女子力という言葉が世に出始めた頃は、飲み会のときにサラダを取り分けたり、フェミニンなかわいさ溢れるファッションを身にまとったり…、ということが『女子力』と言われがちでした。
ですが、昨今はこのような”古風な女性像の押し付け”を女子力と定義することに疑問を呈する人も増えてきています。
そのような背景を受けてか、最近では単に男性から魅力的に見える女性を「女子力が高い」と言うことが多くなってきているように思います。
では、男性から「この子いいな」「気になっちゃう」と思われるような、モテる女になるにはどうしたら良いのでしょうか?
その答えの一つとなりそうな、女子力の手本となる女性が、小説『ティファニーで朝食を』の登場人物にいます。
『ティファニーで朝食を』のヒロインがすごい
1958年、アメリカの作家トルーマン・カポーティによって発表された『ティファニーで朝食を』。
女優オードリー・ヘップバーンがヒロインを演じていた映画の方が、小説より知られているかもしれません。
ただ、映画版は原作小説とストーリーや登場人物の印象がだいぶ違うため、「映画しか見たことがない」という方は、是非小説を読んでみてください。
さて、そんな小説『ティファニーで朝食を』は、主人公である小説家の青年が駆け出しの頃に暮らしていたニューヨークのアパートが舞台。
物語は、主人公が下の階に住んでいた新米女優ホリー・ゴライトリーとの思い出を回想する形で展開していきます。
ホリーはとても奔放で、ニューヨークの社交界を泳ぎ回る人魚のような存在です。
関わった男性たちをみんな虜にしていきます。
主人公も、ただの階下の住人に過ぎないホリーとひょんなことから顔見知りになり、どんどん彼女の魅力に引き込まれていきます。
マイペースで天真爛漫なホリーは、どうして男性たちの心を惹きつけてやまないのでしょうか?
ヒントは、彼女の振る舞いにありました。
ヒロイン・ホリーに学ぶ4つの女子力
1.喜ばせつつワガママに振る舞う
主人公が同じアパートの住人であるホリーと知り合うきっかけとなったのは、ホリーが深夜に主人公の部屋をノックして「鍵を忘れちゃったの」と言ってきたからでした。
驚きつつも穏やかに接していた主人公でしたが、その後もあまりに深夜にノックされることが多く、さすがに自分勝手すぎるホリーに嘆息します。
そんなある晩、ついにホリーは主人公宅の”窓”をノックしてきました。
そして唖然とする主人公を気にもかけず、「下にとってもおっかない男の人が来ているの」と言い、するりと主人公の部屋に入り込みました。
そのときホリーは、灰色のフランネルのバスローブ以外何も身に着けていませんでした。
ホリーは、一息になぜこんな事態になったのかを話した後、
こんな風にひとの部屋に押しかけるのが厚かましいことだってのは、よくわかっているから。
でもなにしろ非常階段はしんしんと冷えるし、あなたはずいぶんあったかそうなひとに見えたから。兄のフレッドみたいにね。
と、言います。
失礼なことをしているのを自覚していながら、あなたが「あったかそうなひとに見えたから」私はここに来たのよ、と押しかける。
「あなたは特別」と言われて嬉しくない男性はそうそういません。
そうしてホリーは、そのまま自分の兄フレッドのことを話し続けます。
私たちは昔四人で一緒に寝てたんだけど、冷える夜に抱きつかせてくれるのは、フレッドだけだった。
ねえ、あなたのことをフレッドって呼んでいいかな?
兄のフレッドは寒い日に抱きつかせてくれた、というエピソードを話しつつ、主人公と自分の兄を重ねようとするホリー。
とりわけ「冷える夜に抱きつかせてくれる」というコケティッシュな表現は、きっと主人公の下心をくすぐったことでしょう。
***
さすがにあなたがこのホリーのように大胆に振る舞うのは難しいかもしれません。
ですが、もしあなたが
- 「忙しそうな彼だし、誘っても迷惑じゃないかな…」
- 「いきなりデートを申し込むのってどう思われるだろう…」
などと、相手をうかがってしまった経験があるのなら、ホリーの振る舞いを参考にする価値はあると思います。
是非、次に意中の男性にアプローチをするときは、思い切って相手の懐に飛び込んでしまいましょう。
そんなあなたの行動に、相手が驚いたり避けたりするようであれば、
「びっくりさせちゃってごめんね、素敵だなって思ったから誘ったの」
と一言喜ばせることを言うだけで、きっと相手の反応が変わることと思います。
2.媚びずに対等に接する
あの小説は二回読んだわ。ガキと黒んぼ。そよそよと揺れる木の葉。描写ばかり。
そんなのつまんない。
これは、ホリーが主人公の書いた小説を読んだ感想を述べたシーンです。
完膚なきまでに酷評されプライドを逆撫でされた主人公は、「どんなものがつまんなくないのか、君の意見を聞きたい」とホリーに詰め寄ります。
するとホリーは、小説が原作の映画作品の名前を挙げます。
それを聞いた主人公は「なるほど」「映画か」と言い、ホリーに”小説のことを何もわかっていない女”というレッテルを貼り、自分の傷ついたプライドを慰めようとします。
しかし、ホリーはそれを見逃していませんでした。
「偉そうな顔をするには、それなりの資格ってものが必要じゃないかしら」と、ぴしゃりと言います。
さらに、自分は誰かと比べる気はないし、小説家として売れるかどうかについては考えていないんだ、と弁解を繰り返す主人公に対して、
あなたの小説と同じ。最後がどうなるかもわからないままに書いているみたいだもの。
と断じます。
主人公は怒りが収まらずその場を後にしますが、ホリーは最後まで主人公に媚びるようなことはしませんでした。
***
日本ではどうしても男性が強くものを言い、女性がそれに我慢して従うという風潮が未だにあります。
ですがもうそれは時代遅れでナンセンスなものです。
もしあなたが過去の恋愛を振り返ったとき、恋人のことをうかがって自分の考えや思いを伝えられなかった経験が多いのであれば、ホリーのように自分の思いをはっきりと伝えるようにすると、これまでよりずっと対等な関係が築けることと思います。
とはいえ、ありのままの自分で接すると相手に嫌われてしまうのではないか、と不安に思う方もいることでしょう。
はっきりと言わせていただきますが、そもそもあなたが背伸びをしたりかわい子ぶったりしないと付き合えないような相手は根本的に相性が悪いですし、自然体なあなたを上から押さえつけようとするような人は、人として小さいです。
きっとホリーも、自分らしく振る舞うことに難色を示すような相手だったとしたら、「あなたみたいなケツの穴の小さい男なんて、こちらから願い下げだわ」と言うことでしょう。
3.相手の想像を良い意味で裏切る
ある日のこと、ある大学出版局が出している文芸誌に自身の短篇小説が掲載されることになって浮き足立った主人公。
とにかくこの喜びを誰かに伝えたい!と早速ホリーの部屋をノックすると、眠そうにあくびを噛み殺しながら出てきたホリーは最初、
ああ、そうね。すごいじゃない、まあ、中に入ったら
と、あまり気乗りではない態度をとりました。
そして、ホリーは主人公を待たせ、洗面所で着替えや掃除などをしながら、自分の近況ばかりを話しだします。
主人公が手持ち無沙汰になり、室内を眺めながら待っていると、ホリーは唐突に主人公に近付いてきて、
あなたの小説が採用されて、とても嬉しいわ。嘘いつわりなく
と言います。主人公にの顎の下に手をあてながら。
***
パーフェクトな振る舞いというのは、時として魅力に欠けます。
例えばこの場合も、玄関で出迎えた段階で「え?!ほんとに!?すごいじゃない!!」と一緒に喜ぶのがありふれた反応だと思います。
ですがもしホリーがそのように主人公の気持ちを酌んで、主人公が喜ぶような接し方ばかりをしていたら、果たして主人公はホリーに惹かれたでしょうか?
答えはノーだと思います。
人間はなかなかに自分勝手な生き物で、自分の想像の域を出ない出来事には徐々に新鮮な興味を失っていきます。
もしあなたが、毎回恋人に浮気されてしまうのだとしたら、それはもしかすると彼があなたのパーフェクトな振る舞いに飽きてしまうのかも。
そんなときはホリーのように、相手が想像しないようなアプローチを試してみてはいかがでしょうか。
4.ぶれない軸を持つ
ホリーはその奔放な振る舞いや派手な格好から、周りから娼婦だと蔑まれたり、狂っていると非難されたり、味方と同時に多くの敵も作るタイプの女性です。
ですが彼女は、他人に何かを言われることや、世間一般の常識からのずれをまったく気にせずに生きています。
そして、自分のルールに従って生きています。
そんなぶれない軸を持ったホリーの象徴的なセリフがあります。
ホリーに淡い片思いを続ける主人公をよそに、ホリーはホームパーティーで知り合い恋に落ちた南米の紳士ホセと付き合い始めます。
ホリーはホセから何も言われていないのに彼と結婚する予定だと言って聞かず、突然ポルトガル語の勉強を始めたり、生理が来ないから妊娠しているはずだと喜んだりしていました。
主人公はそんなホリーのことを心底心配していました。(もちろん一つまみの嫉妬もありつつ。)
そのときに、主人公の心配や嫉妬心に気付いたホリーは、主人公に対してこんな風に言います。
いや、もちろんホセが私にとっての究極の伴侶ってわけじゃないわ。
(中略)
もし今生きている人間の中から誰でも自由に選べて、ぱちんと指を鳴らして、ちょっとあなた、こっちに来てちょうだいって言えるとしたら、私はたぶんホセを選ばないでしょうね。
(中略)
それが何か変かしら?結婚ってどこまでも自由なものであるべきよ。相手が男だろうが女だろうが、あるいは――たとえばもしあなたが実は競走馬と結婚したいんだと言いだしても、それが変だなんて私はちっとも思わないな。
また、最後にはこうとも言っています。
退屈な結論だけど、要するに『あなたが善きことをしているときにだけ、あなたに善きことが起こる』ってことなのよ。いや善きことというより、むしろ正直なことって言うべきかな。
規律をしっかり守りましょう、みたいな正直さのことじゃないのよ。もしそれで楽しい気持ちになれると思えば、私は墓だって暴くし、死者の目から二十五セント玉をむしったりもするわよ。
そうじゃなくて、私の言っているのは、自らの則に従うみたいな正直さなわけ。
(中略)
不正直な心を持つくらいなら、癌を抱え込んだ方がまだましよ。
***
これは男女問わず、また、恋愛に関わらずですが、ぶれない軸を持っている人はとても魅力的です。
むしろこの『ぶれない軸』があるからこそ、媚びずに対等に接することができたり、相手の想像を超えるような振る舞いをおこなえるのだと思います。
自分の決めた価値基準やルールに従うというのは、簡単なことに見えて実はとても難しいことです。
なぜなら、自分で決めたルールはほとんどの場合確実に世間の常識とは違うものになるはずで、他の多くの人たちとは異なる考えを表明するということはそれ自体で非常に勇気がいることだからです。
もしもあなたが、ホリーの在り方に憧れを抱き「私もこうなれたら」と思うようであれば、まず気取るのをやめ、自分に正直であるよう心がけるのが良いと思います。
そして、ちょっとずつで良いので自分の正直な気持ちを恋人や意中の相手に表現していくと良いでしょう。
自分の感情や考えを押し殺して相手に合わせることは、女子力とは言えません。
自分というぶれない軸を持ち、そんな自分の在り方を誇ることこそが、好きな人に愛されるための本質的な女子力です。
最後に、もしこの記事を通じて小説に興味を持っていただけたようでしたら、是非『ティファニーで朝食を』を読んでみてください。
(おすすめは村上春樹訳です。)
多くの男性から好かれながらも、きちんと自分の好きな人を射止めてしまうホリー・ゴライトリーは、きっと、いつも相手や周りばかりうかがって自分を見失いがちなあなたの恰好のロールモデルになると思います。