ライターのナナシロです。
僕は以前、「『添い寝屋』をやってる僕がどんなことをしてるのか質問に答えるよ」という記事を書いたのですが、 今回はその添い寝屋の活動の中で遠方から僕を呼んでくださった依頼者の方をご紹介しようと思います。
なお、他の添い寝屋レポは以下から読むことができます。(随時更新予定)
***添い寝屋レポシリーズ***
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今回お話しするのは、長野県在住のBさん(20代後半女性)。
Bさんは長野に住んでいながら東京で活動をしている僕を呼んでくださいました。
僕は最初「そんな遠方から僕のことを呼んでくれるなんて珍しいこともあるものだ」と思っていたのですが、今となっては、それだけ添い寝屋を強く欲している人が多いのだと思うようになりました。
そして、添い寝屋を依頼してくる方の多くに共通するのが『寂しさ』です。
LINE、Twitter、Facebookなどで常に誰かと繋がり続けているのに、慢性的に感じる『寂しさ』。
それは食べても食べても満たせない飢餓感のように、現代を生きる僕らを蝕んでいます。
個別の事情こそあれ、Bさんも同様でした。
うまく眠れない長野在住のBさん
Bさんは発達障害があり自己管理が苦手なため、現在は父親が運営に関わっている施設に入所しつつ、実家の近くで一人暮らしをしています。
“障害”というと特別な目で見られがちですが、Bさんは、生活リズムや精神面のコントロールが苦手なことを除くと、お喋り好きで誰からも愛されるキャラクターです。
ですが、自己管理が苦手なことに加え、かねてから彼女が患っていた不眠症が悪化していたこともあり、施設へ通うのが徐々に困難になっていったようです。
最近は慢性的に体調を崩しており、また、情緒も不安定になっているようでした。
そんな折、僕と連絡をとる機会があり、Bさんは僕に添い寝を依頼しました。
彼女は笑いながら「人肌恋しい」と言った
Bさんは表情が豊かで話好きであるため、当日駅で僕をピックアップすると、車内で楽しそうに近況を話してくれました。
関東に住んでいた頃に同棲していた男性と離れたことや、両親といろいろ話したこと、長野に住むようになってから関係をもった男性の話、最近はすっかりアニメのキャラクターや声優さんにハマってしまっていること、仕事を請けながらデザインの勉強を独学で始めたこと。
一気に話し終えた後、大きく息を吐いたBさんは、笑いながらこう言いました。
「こんなに話したの久々だな。起きてから寝るまでだいたいいつも一人だからどんどんアニメにハマっちゃうし、やっぱり人恋しいよね」
以前、緊縛ショーモデルさんとの添い寝レポのときにも書いたのですが、添い寝屋の役割は添い寝をすること自体にはありません。
添い寝屋に依頼をするということは、人それぞれに添い寝に至るまでの背景があります。
他に頼みようがないから添い寝屋に行きつく、という感じでしょうか。
なので、
依頼者が何を求めて僕に添い寝を依頼したのか
その根の部分を探ることが必要でした。
Bさんはその日既にたくさんのことを話してくれていましたが、より注意深く耳を傾け、何故僕を長野まで呼んだのかきちんと知ろうと思いました。
幸い、二泊三日で滞在する予定だったため、初日はできるだけ彼女と向き合ってじっくりコミュニケーションをとることにしました。
自分を押し殺して生きる”寂しさ”
Bさんは異性からとてもモテる人だったため、異性関係でフラストレーションを感じる経験はあまりなかったのではないかと思います。
(実際このときも、よく遊ぶ男の人はいると言っていました。)
にも関わらず、彼女は『人肌恋しい』と言いました。
Bさんが案内してくれた地元の定食屋で夕飯を食べながら、彼女の抱えている寂しさがどこから来るのか探っているうちに、あることに気が付きました。
Bさんは、他人との感覚のズレをしきりに気にしていました。
彼女が話してくれた現在や過去のエピソードには、
「相手の感覚が分からない」「自分の感覚を理解してもらえない」
といった状況がとても多かったのです。
そして、その感覚のズレから生じるもやもやを回避するために、彼女は当たり障りないコミュニケーションをとる癖を身につけてしまっていました。
ですが、それは本来の自分を押し殺すことになるので、とてもストレスがかかるやり方です。
よりによってBさんは完璧主義なところがあったため、周りとうまくやろうとするがあまりに徹底して自分を殺してしまっていました。
その結果、Bさんは本来の自分をありのままに見せることができる相手が、本当に限られた人だけになってしまいました。
彼女が必要としていたのは、誰かに「ありのままでいいんだよ」と言ってもらうことでした。
そして添い寝へ
それから、「それじゃそろそろ眠ろうか」とどちらともなく言い、僕らはベッドへ向かいました。
「体の関係なしに男の人と寝ることなんて初めてだから、どうすればいいか分からない」
とBさんが言いました。
先ほども書いたようにBさんは、本来の自分を隠して他人と接する癖があるため、「どうすればいいか分からない」というのは、添い寝に対する戸惑いよりも、普段他人に見せない自分を見せることへの恐れから出てきた言葉のようでした。
なので僕は、「お好きにどうぞ。僕は絶対に引いたり拒絶したりしないから」と言いました。
布団に入ってしばらくは肩を並べて寝ていましたが、「後ろから抱きしめて欲しい」というリクエストがあり、その通りにしました。
薄暗がりの中で、灯油ストーブの音だけが鳴っていました。
徐々にいつも張っている気が緩んできたのか、Bさんは眠たげな声で、
「やりたいことがあっても活力が湧かない」
「他人にどう甘えたらいいか分からない」
などといった不安を吐露しました。
そんなBさんに、僕は笑いながら「焦らなくていいよ。大丈夫だよ」と言い、続けて
「じゃあこれは僕との約束だけど、毎日一つでいいから面白かったことを僕に教えてよ」
と言いました。
「焦りや不安は思い始めたらきりがないから、毎日何かしらの『面白い』を探しているうちに、明日や明後日が楽しみになってくるよ」
と僕が言うと、彼女は口をキュッと結んで「分かった」と頷きました。
「男の人と一緒に眠るってなるとさ、どうしても男と女の関係になっちゃうよね」
添い寝屋さんってそういうのも気にしなくていいし、ほんと特別だよね、と言いながらBさんは僕の手を握りました。
「そうかもね」と僕は言い、それきり彼女は何も喋らずに寝息を立て始めました。
翌朝、僕らは特に予定もなかったのですが、午前中に起きだしました。
先に書いたとおりBさんは不眠症だったため、これまでは睡眠導入剤を飲んでやっとのこと眠りにつき、翌日は午後にならないと起き上がれない状態でした。
ですが、この日は午前中からすっきりとした顔で起きだしました。
「こんなにちゃんと眠れて午前中に起きれたの、本当に久しぶりだな」
彼女はそう笑いました。
冬の日のピンと張りつめた空気の中で、僕らは部屋に差し込んできた朝日に包まれていました。
僕はBさんの家にもう一泊して、長野を後にしました。
Bさんはその後、見違えるように活力を取り戻し、仕事にも意欲的に取り組めるようになりました。
Bさんは、僕がこれまで添い寝をしてきた方の中でも、もっとも添い寝した後に変化があった方かもしれません。
P.S.
このタイミングで言うべきか迷ったのですが、僕ナナシロは今月の初めに添い寝屋を廃業しました。
理由は、僕に大切にしたい人ができたからです。
自分以外の女性と同じ布団で寝ることで大切な人を不安にさせたくないからです。
僕が添い寝屋と名乗るようになってから半年程度ではありましたが、たくさんご依頼いただきましてありがとうございました。
誰かが僕の意志を継いで、どこかで誰かと添い寝をしてくれていたら嬉しく思います。
なお、まだらぶりりーすでレポを書いていない添い寝屋活動もありますので、今後もときどきこれまでの活動報告をさせていただくことがあると思います。
楽しみにしていただけたら幸いです。